Sufjan Stevens : All Delighted People EP
ARTIST /Sufjan Stevens
TITLE / All Delighted People EP
LABEL / asthmatic kitty
DATE / 2010
TITLE / All Delighted People EP
LABEL / asthmatic kitty
DATE / 2010
1703。以前紹介した盤"The Age Of Adz"。天才はわれわれのために全力を尽くしてくれる。凡夫は、彼らのために何ができるか考えなければならない。彼らの苦悩を理解し、なんとかして支えなければならない。可能ならば、彼らの話相手にならなければならない。無能な僕たちは、そうでもしなければ存在価値などないということを理解しておかなければならない。Sufjan Stevensが歌を引っさげてもう一度戻ってくると決めたときに投入した何気ないひとふり。しかし彼は、僕たちのために、そこにまで全力を尽くしてくれた。決して遊びで身振りを取るのではない。全力だ。EPのはずの本作。全8曲。そのくせ60分もあるのだ。'Sounds of Silence'からの引用を含むシンボリックな表題曲M1で11分。シングルマザーになった妹にささげられたM8は17分に及ぶ。もはや僕がもっとも敬愛すべき性能の形態とさえいえる、理性的なスキゾフレニアの姿がここにある。ともすればふざけているとさえ思える姿は、ポピュラー音楽で、現在唯一神がかりだといえるかもしれない。もちろん曲を成立させているキリスト音楽的な諸要素がその性向を高めているというのは間違いないが、それはほんの些細な部分である。肝要なのは、彼が示したコンポーズ、そして、何よりも彼が精神で叫ぶ声。この2つで、この神がかりを説明するのにほぼ90点は取れるだろう。最初と最後で示す大曲の間に並ぶ小品は、相対的に地味にならざるを得ないが、そこにあるクオリティは、Sufjanが歌を取り戻したことを端的に確信できる重要さを持つ。もはや、2010年に入り、われわれは失われた指針をさらに足で踏みつけるという時期に来ているといえる。新しく生まれた世代には、自分たちの時代に郷愁を込めることができる。われわれ80年代生まれが、その音楽の精神性を90年代に固くするように。しかし、じゃあ、われわれにとって、音楽は死んでしまったのか。もはやそこに喜びはないのか。そうではない。ここで歌われているように。All Delighted Peopleなのだ。彼は、愛するわれわれのために、われわれが住むくだらない世界をいつくしむ。われわれは、彼の音楽に誘われて、両手を高く掲げるのだ。今、われわれは、最高に、愛に、満ちて、いる。そう確信する。