Mike & Rich : S/T
ARTIST / Mike & Rich
TITLE / S/T
LABEL / rephlex
DATE / 1996
TITLE / S/T
LABEL / rephlex
DATE / 1996
2155。日本盤のタイトルは『ゲームの達人』。そんなこんなで、MikeとRichの競演盤。ジャケで、下手がMikeことParadinasさん。上手がRichことRichardさんです。わざとらしい照明で浮かび上がる不敵なニヤニヤを浮かべて、なんだかよくわからないテーブルゲームに興じる2人の姿は悪意そのものです。悪意とは、演出するものであって、自然として抱えるものではないことに注意。演出にも覚悟がいるが。1996年は、2人にとっても大事な時期であり、その後のEDMを一気に拡張させる時期と前後している。ポップスとしてのテクノ、メインストリームとしてのテクノ。もはや、少数の人間たちが、欺瞞に満ちた特権意識でもって自分たちとはどういう存在かを主張するような時期ではなくなったのだ。テクノは、電子的性向をもつ音楽は、そのような偏屈な地平を軽やかに抜けた。そのブレイクスルーを果たしたRichと、そのそばで悪意にあてられたMikeの2人の競演である。どういう音楽になるかという想像は、もしかしたら、なかなか容易なようで難しいかもしれない。本作で、ゴリゴリのドラムンを敷きつつの美麗な広がりを期待するのは違うだろうし、どちらか一方の性向で固めるのだろうかと考えるのも違う。彼らは演出された悪意でもって、チャイルディッシュでレトロなラウンジ的BGMを作り出した。背筋を伸ばして取り組むと、脊髄ごとばきばきにされてしまうこと受けあいである。ジャケのネタものである古いボードゲームを楽しむかのように、彼らは過去を大真面目に、そして隠しきれない悪意でもって悪ふざけする。もちろん、それは、アイロニカルな批評でも何でもなく、愛そのものの体現であることに注意。単純に見えてよく練りこまれている、とかそんなどうでも良いコメントを付する必要はないし、純粋に鳴らしておいても表面上は害がない。それだけにやっぱりたちが悪いのである。本作以後、2人がコラボすることはないし、というかRichardさま自体がそのように全面に出て誰かと手を組むなんてことはまったくないのであるが、それだけに、リスナーを煙にまきにまく悪意と、そして何よりも圧倒的な愛でもって、本作は成立しているのであった。聴いても聴かなくてもよいけど、物語を語る上では、欠かせないのはいうまでもない。そして、音の細部に穿った感慨を持てばよいのである。